虹
智恵子抄ではないが、東京には空がない。本当にそう思う。高層ビルに隠されて頭上のわずかな部分だけが空という面積の問題もあるし、夜になっても星を見ることができないほど明るいという問題もある。いわば、空が本来の空としての機能を持っていないのが東京である。東京における空の機能は、光化学スモッグを引き起こす場所ぐらいなものかもしれない。寂しいことである。
ところが、霧の都ロンドンには空がある。高いビルを建てることを極端に嫌う民族である英国人は、ロンドンの秋葉原とも言うべきトテナムコートロードそびえる(ほどでもない)センターポイントビルですら忌み嫌っている。ただ、古いものが好きという英国人気質があるため、すでに充分に古くなってしまったセンターポイントビルは、許可なく壊すことができないビルに指定されてしまうらしい。センターポイントビルを嫌っていた人々にとっては、複雑な心境であろう。
高いビルを嫌う英国人気質は、IRAの爆弾工作班にも遺伝しているらしく、爆弾で狙われたビルはどれも不評を買うほど高いビルばかりである。そう、センターポイントビルの二の舞を防ぐためにも、高いビルは古くなる前に爆破してしまおうという合理的な思想に違いない。
さて、ということで、ロンドンには高いビルがない。これは本当に素晴らしい。隅田川花火大会の日には、東大農学部2号館の屋上で見学しながらビールを飲んだものだが、上野の方角にそびえたつビルに邪魔され、やり場のない憤りを感じたものだった。しかし、ロンドンでは、充分に隅田川花火を堪能できるのである。問題は、ロンドンには隅田川がないことぐらいである。
東大農学部2号館の屋上といえば、学生時代いろいろな催し場として使われていた。春になると、焼肉パーティー、夏はとにかくビールと花火、学科内ソフトボール大会で優勝したときには「ビールかけ場」と化したこともあった。高い柵もなく、ちょっと思い立てばすぐに自殺できる屋上だったが、今はどうなっているのだろうか。
いつものことだが、話が全く違う方向にいってしまった。今日の話は、東大の屋上におけるビールかけの現状ではなく、ロンドンの空であった。
さて、以前にも話したが、高いビルがなく空が空としての機能を持っているロンドンでは、空の早変わりの術に驚かされることがある。雨が降ったと思ったら晴、晴れたと思ったら雨、といった具合に、一日の中でも頻繁に天気が変わる。ちなみに、筆者の実験ノートには、その日の天気が記入されているが、それは朝の時点での天気であって、一日を通してみると当てにならない。何のために書いているかというと、湿度や気温の変化によって実験に影響があるかもしれないため、後々調べられるようにという配慮からである。が、残念なことに英国では機能していないようだ。
さて、天気がころころかわるということは、筆者が大好きな虹が頻繁に見られるということでもある。すでに、日本で見た回数ぐらいは英国に来てから見てしまったのではなかろうか。特に先日見たものは、特に素晴らしかった。そこで、ここでお目にかけたいと思う。
よく見ると2重にかかっているのがわかることと思う。この写真は全体が写っているわけではないが、実物では完全な虹の掛け橋となっていた。
これだけでも、ロンドンに暮らしている価値があるというものである。
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