ライトアップ

 ライトは切れているものである。信号だろうと車のライトであろうと、切れていることが英国製であることを主張する一番の方法であるかのように切れている。切れていないライトは、偶然切れていないだけであって、10秒後には切れる運命にあるだけの話である。

 しかし、この原則があてはまらない、とってもBritishではない(?)ものもある。それは、いまや英国経済を支える柱とも言える観光産業に使われているライトである。すなわち、夜間の教会や観光名所の建物を照らすライトのことである。

 英国の冬は寒く暗いため、多くの観光客が訪れるのは夏である。しかし、夏は果てしなく日が長く、暗くなるのが9時か10時である。このような半白夜状態では、故ダイアナ妃とチャールズ皇太子が結婚した聖ポール寺院が美しくライトアップされる様をみることは不可能である。もちろん、遅くまで起きていればいいのであるが、長旅の疲れと日本との時差を考えると10時まで起きていられる人は数少ないであろう。もちろん、一部のふくろう的生活をしている研究者の中には、日本にいながら英国時間で働いていて、英国に来ても時差を感じないとう方もいらっしゃるかもしれないが、それは例外とさせていただく。

 したがって、聖ポール寺院が光り輝く素晴らしき光景は、夏に英国に来てもみられない可能性が大きいのである。



 しかし、冬になると状況は一転する。4時には暗くなり、ロンドンの町中に数々のライトアップされた歴史という建造物が浮かび上がる。この光景は、一度見たものの心をとらえて離さない程の美しさである。そして、昼間の薄汚れたロンドンは陰を潜め、古き物を愛する英国人の努力は、この時のためだけのものに違いないと確信させてくれる。

 考えてみると、東京の夜景もかなりきれいなものであるが、ロンドンの夜景とは明らかに異なる。東京の夜景は人の生活感に満ちたものである。言い換えると、全体として美しさを持っていっても、その光の一つ一つを見ていくと、オフィスで残業しているお父さんの姿や、4畳半一間のアパートで暮らす外国人の不安そうな姿も浮かんでくる。

 しかし、ロンドンの夜景は生活感とは縁がない。過去の遺産を誇りに思う英国人が、あくまでも胸をはり続けている毅然とした姿のみがダブってみえるのである。

 筆者は、タワーブリッジ周辺、特にテムズ川南岸の地域を散歩することが好きであり、何度となく足を運んでいる。しかし、面白いことに、大抵冬の寒い時期に散歩に出かけているのである。それは、日が落ちた頃に浮かび上がるロンドンの夜景に心躍る、いや心洗われるからである。参考までに夜のタワーブリッジをお見せしよう。



 これこそ、寒い中ロンドンを観光する人の特権的夜景である。

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