叫び
気になっていたことがあった。5月16日(土)の今シーズンの最後を飾るFAカップファイナルの「結果」のことである。
FAカップとは、日本でいうと、サッカーの天皇杯に相当するものであり、トーナメント形式のサバイバル戦である。昨年の決勝は、筆者のお気に入りのチーム・チェルシーが優勝したが、今年は、チェルシーではないがロンドンのチームであるアースナルが決勝に進出し、下馬評では間違いなく優勝するだろうと言われていた。
その日、筆者は娘の学校の友達の誕生パーティーがあり、その送り迎えのため、試合を見ることができなかった。しかし、試合を見ることができないことと試合の結果をリアルタイムで知ることとは、決して矛盾しないことなのである。
娘をつれて町を歩いていると、叫び声が聞こえてくる。それは、大抵の場合、FAカップをパブで観戦している英国人の叫びである。その叫びの微妙な違いから、「お、今、アースナルが得点したに違いない」、「今の叫びは、相手チームのシュートが外れたものに違いない」といった具合に、試合経過を知ることができるのである。
もちろん、ロンドンのおけるパブの数は、日本におけるコンビニエンスストアの数ほど存在するので、町を歩いているだけで、あちこちから試合経過を知らせてくれる「叫び」が聞こえてくるのである。
で、問題の気になっていた「結果」であるが、実は試合の結果のことではない。気になっていたのは、試合後の結果のことである。アースナルの本拠地は、筆者の住んでいる場所からさほど遠くない。ということは、方向音痴なアースナルファン(?)が、やってくる可能性があるということである。これは、次のような理由から、一種の恐怖でもある。
ロンドンの地下鉄に乗ったことがある方は御存知かも知れないが、地下鉄や街中で叫んでいる英国人を見たら、それは大抵の場合フットボールファンの勝利の雄叫びである。通常の試合でも、耳をつんざくような雄叫びをあげる英国人が、FAカップ優勝時に、何をやるのかは、想像を絶することに違いない。
例えるなら、浦和レッズと阪神タイガースの優勝日が博多どんたくと一緒になったようなものである。何が起こっても不思議はないだろう。
で、筆者の家の近所で何が起こったかというと、アースナルの旗をもった集団が道いく車を止め、アースナルの勝利のポーズを取るように強要しているのである。その狂喜乱舞、傍若無人、妖怪変化、魑魅魍魎ぶりは、機関銃に対して竹やりで挑もうとする狂った大和魂に通じるものがある。なにせ、いきなり道路に飛び出してしまうのだ。しかも、車を選ばない。乗用車はもちろん、バスであろうとも手心は加えない。
が、敵もさるもの引っ掻くものである。バスの運転手は、正常な運行時間を守るため(?)、アースナルのユニフォームをフロントガラスの内側に飾って走っているのである。「このバスはアースナルのファンである。だから、そこをどけ」ということ(?)なのである。車道に飛び出すファンもすごいが、それを避けるためにアースナルのユニフォームを水戸黄門の印篭のように飾って走るバスもなかなかである。
ロンドンと英国人、それは人類に残されたファイナルフロンティアかもしれない。
ちなみに、優勝セレモニーには20万人が参加し、アースナルのホームグランド近くに住んでいる友人は、一睡もできなかったそうである。
前へ
次へ