新聞を読んでいたら、信じられないような記事が載っていた。台湾人の一行が英国に勉強に来たという記事である。もちろん、筆者も留学をしたわけであるので、朽ちたりともかつて繁栄を誇った大英帝国の末裔たちに、多少ばかりは学ぶことがあることを知っている。例えば、いかに仕事をさぼりながらも適正な給料を搾取するかとか、紅茶にいつも一定量のミルクを入れるためにはどうしたらよいかなどは、そのさえたるものである。また、電車の行き先がころころ変わるという「女心とロンドンの地下鉄」という外国人泣かせの罠に引っかからずに、いかにして無事最短時間で家に帰るかというジェームスボンドも真っ青の秘策を体得するということも、ロンドン滞在中に学んだ大切なことの一つである。
それはさておき、いったい、台湾人一行様は、英国に何を学びに来たというのだろうか。新聞によると、なんと「ユーモアのセンス」を学びに来たというのである。台湾人のユーモアのセンスがどの程度のものなのかは、筆者には全くわからない。が、英国のユーモアのセンスがいかなるものかに関しては、一家言あるのだ。
英国のユーモアは、クリスマス以降3月末までの気候に密接に関係している。さらに言うなら、1月のセールが終わった季節にスコットランドに出かけてみると、なおさらよくわかるかもしれない。そのころの気候は、雨・暗い・寒いという三拍子そろった英国のユーモアを培うには最高の季節なのである。もちろん、このような気候の元で培われるユーモアというのは、からからと乾いた笑いにはなりえない。唇の端が引きつるようなブラックな笑いとなるのである。
考えてみてほしい。雨の中笑ったら、雨水が口の中に入って来るではないか。だから、口の端で笑うのである。寒い気候の中、大口を開けて笑ったら寒気が口の中に進入してしまうではないか。だから、口の端で笑うのである。暗い中笑ったら、怪人二十面相かドラキュラのようではないか。だから、口の端で笑うのである。
気むずかしく理論的な英国人にふさわしく、きわめて理にかなった笑いといえよう。
この笑いが台湾人に通じるのであろうか。台湾といえば、国会での大バトルが有名である。男であろうと女であろうと、国会の場となるとアントニオ猪木も真っ青の格闘を行うお国柄で、ブラックなユーモアを披露したならば、口の端をこじ開けられて、北京ダック、いや台湾ダックでもつっこまれてしまうに違いない。
英国流ユーモアは、台湾にはそぐわないのである。新聞記事には、ユーモアを学んだ台湾人たちが、帰国後に台湾ダックを口のつっこまれたかどうかという追跡記事は載っていなかったので詳細は不明であるが、すくなくとも英国で学んだユーモアが台湾国会を穏和なものにしたということはないようである。