なつかしいもの
伊太利に到着して以来、何か懐かしいものを感じていた。それは、夢の中で見た場面が現実になって現れるという類のものではない。それが、何なのかは、フィレンツェへ向かう列車の中で明らかになった。
明らかになったというと大袈裟であるが、窓の外の景色を眺めていると、それは、日本のそれと酷似していることに気がつく。だから、懐かしいと感じるのである。具体的に言うと、ピサ空港からフィレンツェ中央駅までの車窓の風景は、小田急線・新松田駅から本厚木駅間の景色とほぼ同じといって良いだろう。ローカルな例えであるため、読者のほとんどの人はおわかりにならないだろう。そういった方のために、もう少し解説を加えることにしよう。
英国で車窓の風景というと、牧草地と牛羊、そしてたまに見られる菜の花畑である。それ以外の風景は全くないと言ってもいいほどである。それに対して、伊太利の風景は、トウモロコシ畑とヒマワリ畑であり、またその向こうには、英国にはない山々がそびえている。さすがに田んぼを見ることはできなかったが、これで田んぼがあったら、伊太利見聞録は小田急線見聞録になってしまうところである。
こう書いてくると、「何を言うか。日本の車窓と変わらない何て、またいいかげんなことを言って、読者をばかにするのもほどがある。もし、そうならあの長寿番組世界の車窓からが成り立たないじゃないか」と、文句を言われる方もいらっしゃるに違いない。それも然りである。
それでもあえて、自説を曲げずに強引に話を進めてしまおう。筆者がフィレンツェ駅に到着するまでの間に考えていたことは、小田急線から見ることができる風景と、この風景の両方をならべ、どちらが伊太利の風景かをあてるクイズを実施したら面白いに違いない、ということであった。もし、100人がクイズに答えたら、30人ぐらいは間違えるに違いない(もちろん、紛らわしいところを選ぶ)。それぐらい似ているのである。しかしながら、小田急線鉛線の風景写真が、このロンドンで手に入るはずもなく、この企画は没に「おなかざる」、いや「せざる」を得なかった。
ちなみに、伊太利の駅のホームは低い。別に背が低い日本人に対する嫌がらせではないだろうが、「どっこいしょ」のかけ声をかけないと電車に昇れないぐらい低いのである(ただし、対象年齢30才以上。若い人はこの限りではない)。さらに電車の中に入ると、今度はドア攻撃が待っている。とにかくドアが多い。一両に3つ出入り口がある車両では、乗ると左右にドアがある。東海道線のような両端に出入り口がある車両では、車両の真ん中になぜだかドアがあったりする。まるで、車両間の移動をさせないために、ドアまたドアの怒涛の攻撃をしかけているようである。
ちなみに電車のダイヤであるが、ピサ空港発フィレンツェ行きは、2時間に1本である。誰でも即座に時刻表を暗記できてしまうほどの少なさである。よほど、ローカルな飛行場であるに違いない。英国の電車との比較は難しいが、筆者が利用した限りでは、遅れたり停まったりした気配はなかった。しかし、あらかじめ遅れることを考えに入れて時刻表を作っているかもしれないので、これをもって伊太利の電車は英国の電車より優秀であるとは言えないだろう。
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