先手必勝の法則
七五三というゲームがあるのをご存知だろうか。もちろん、11月15日の七五三のお祝いとは全く関係ない。筆者が中学校の時に、一時的に流行った遊びである。ルールは次のようなのものである。紙に縦線を3本、その下に5本、さらにその下に7本書く。そして、隣り合った1本から3本の線を消していき、最後の1本を消さなくてはならなくなった人が負けという2人用ゲームである。
休み時間にかなり流行ったのだが、実は、筆者はほとんど無敗を誇ったものであった。なぜなら、必勝法があることに気づいていたからである。今でも遊んでいる人もいるかも知れない(この文章を読んでいる人でそんな人はいないか)ので、必勝法の極意を公開するのは控えるが、実は先手必勝なのである。つまり、じゃんけんで勝てば、100%勝利を手中に収めることができるとだけ言っておこう。
このような簡単なゲームなら、すぐに必勝法を見つけることが出来るが、将棋やチェスなどでは、現在のところまで、どんなコンピューターを使っても必勝法を見つけだすには至っていない。将来、必勝法が見つかったら、「先手○×歩」と最初の一手をうったところで、「まいりました」と言ったことになるかも知れない。まあ、そうなったら、ゲームとして成り立たなくなってしまうけど。
さて、ということで、今日の話題は先手必勝の話である。ここのところ、癌の治療法に関する論文を続いて紹介してきたが、今日の論文もそれに近いものである。
癌細胞に関しての最大の疑問点の一つは、なぜ免疫細胞によって癌細胞が攻撃されないかということである。異物を排除するのが免疫細胞の勤めなら、癌細胞を排除しないのは、職務怠慢、経費の無駄遣い、公費横領、税金の無駄遣いというものである(どこかの知事の話しになってしまった)。
が、彼らにも言い分がある。癌細胞を排除しないのではなく、排除できないと言うのである。そう、接待費を使うのは、仕事を円満に進める潤滑油だというのと同じである(全然話が違う)。
では、どうして排除できないのであろうか。今日紹介する論文によると、排除できないのは、免疫細胞自身が癌細胞により、逆に排除されてしまっているからだと言うのだ。そう、これが、先手必勝の法則である。やられる前に殺ってしまえというやくざのような細胞、それが癌細胞だったのである。
詳細は次の通りである。
細胞性免疫による異物細胞の攻撃は、細胞表層上のFasタンパク質とFasLタンパク質(Fasのリガンド)によって引き起こされている。細胞性免疫で破壊される細胞の表層にはFasが存在し、その細胞を攻撃するT細胞の表層上にはFasLが存在している。T細胞上のFasLが破壊される細胞上のFasLを認識し、その細胞内にシグナルを伝達する。このシグナルは、アポプトーシスを誘導するシグナルであるため、結果的にその細胞は自殺を強いられてしまうのである。
ところが、何故かT細胞はFasLと同時にFasも持っているのである。
その事実に目を付けたのが、癌細胞である。癌細胞の表層にFasLが発現したらどうなるであろうか。癌細胞を破壊しようとして近づいてきたT細胞のFasに癌細胞の表層のFasLが結合し、T細胞自身を自殺に追い込むことが出来るのである。まあ、この場合、正当防衛が認められる可能性は高いであろう。何せ、T細胞が私を殺そうとして近づいてきたので、思わず逆に殺してしまってのです、と裁判官に申し立てればいいのだから。
さて、実際の実験は、FasLを発現しているマラノーマ細胞をマウスに導入して腫瘍の形成具合を見るというものである。通常のマウスにメラノーマ細胞を導入すると、予想通りの早さで腫瘍が形成される。ところが、Fas欠損のマウスにメラノーマ細胞を導入すると、明らかに腫瘍の形成が遅れることが明らかになった。
すなわち、Fas欠損のマウスのT細胞は、当然のことながらFasを持っていないので、メラノーマ細胞の先手必勝攻撃をかわすことができ、かつ逆にメラノーマ細胞を攻撃していると言うのである。
これをどのように応用するかは、これからの開発次第だが、Fas欠損T細胞の導入、あるいはFasの発現抑制、なんていう治療法が出来るのかも知れない。これまた、今後の展開が楽しみである。
Science 274, 1363-1366 (1996)